米国ではおカネに関する教育が日本よりも進んでいるのはみなさん、何となく感じているのではないでしょうか?

では、具体的には何を教えているんだ?となると、意外と知られていないかもしれないので、今回は紹介したいと思います。

まずは基礎から、ということで、子ども向けのおカネの教育をみていきましょう。

アメリカでは各種NPO団体が全国規模で様々なおカネの教育に関する活動を行っているのですが(詳細は別表1)、特に重要なのは、どの年齢の子どもに何を教えるべきか、が定められている(もしくは議論されている)ことです。

というのは、「おカネの教育」と一口に言っても、何を教えるかは実際はかなり広い範囲にわたっています。しかも、親御さんや教え手のおカネに関する価値観も様々ですので、最大公約数に、少なくともこの年齢だったらこのぐらいは知っておいて欲しいよね、というのを定めることには意義があるわけです。

一例として、ワシントンDCに本部を置く、Jumpstart Coalitionの定める内容をみてみましょう(詳細は別表2)。

  Spending and Credit (費用とクレジット)
  Income (収益)
  Saving and Investing (貯金と投資)
  Money Management (マネー・マネジメント)

という4つの分野に分けて、おカネに関して子ども(最年長で、高校生まで)知っておいて欲しい内容がまとめられています。特徴的なのは、どの分野も、そもそも論から始まっていることでしょう。

たとえば、「貯金と投資」という分野では、「どうやって貯金/投資をするのか」というHOWの話の前に、”Reasons for saving and investing (貯金と投資が必要な訳)”と、WHYの話から始まっています。

おそらくは、アメリカにおいても試行錯誤の末にできてきた「最大公約数」ですから、この、WHYから教育を始めるというノウハウは日本でも活かしてもしかるべきだと感じます。「おカネの教育」と聞くと、ついつい、投資の手法を教える、株式市場の仕組みについて知る、など、おカネを「殖やす」方に目がいきがちですが、そもそも論としてはおカネは手段なわけですから、「お金を使って何をするのか」という目的から考え始めるのは、健全だな、と思うのです。

 【別表1: 米国における子ども向けおカネに関する教育を提供しているNPO】

●ジュニア・アチーブメント
1919年設立の世界最大の経済教育NPO幼稚園〜高校にボランティアを派遣、世界約100拠点で年約700万人に授業。経済教育を通じ自ら意思決定し、将来設計する能力を養う。本部はColorado Springs。http://www.ja.org [1] ●米経済教育協議会 (NCEE)
1949年設立のNPO。幼稚園から高校まで経済教育の指針となる学習基準(「経済教育に関するスタンダード」)を設定、ほぼ全米で採用。学校教師を通じた経済教育の浸透に力点を置き、教師向け教育プログラムを実施。http://www.ncee.net [2] ●ジャンプ・スタート
1995年設立。幼稚園〜高校まで貯蓄や正しい消費、投資など個人の資産管理の分野で学年ごとに理解すべき教育基準を策定。http://www.jumpstartcoalition.com [3] ●全国金融教育基金 (National Endowment for Financial Education)
クレジットユニオン協会、農務省、州立大学のエクステンション・サービスとタイアップして、高校生向けのファイナンシャル・プランニング教育を提供。2004年からはeラーニング用のカリキュラムも提供している。http://www.nefe.org/ [4]

 

【別表2 Jump Start Coalitionの定めるパーソナル・ファイナンスに関して教える領域】

●Spending and Credit (費用とクレジット)
Comparison shopping
Opportunity cost
Payment methods
Consumer information
Consumer compliant procedures
Credit costs and records
Credit problems, including bankruptcy
Consumer Credit Protection Laws

●Income (収益)
Income sources
Factors affecting income
Entrepreneurship
Tax and government services
Inflation and purchasing power
Social Security and Medicare
Employer-sponsored savings plan

●Saving and Investing (貯金と投資)
Reasons for saving and investing
Saving and investing products
Risk, return and liquidity
Compound growth, time value of money
Rule of 72 and dollar cost averaging
Diversification
Prospectus and information sources
Regulation of financial markets
Employer-sponsored savings plans

●Money Management (マネー・マネジメント)
Needs and wants
Financial decision making
Budget
Financial responsibility
Insurance, risk management
Financial information sources
Personal financial plan
Legal documents such as wills
出所: Jump Start Coalition for Personal Financial Literacy, “National Standards in Personal Finance with Benchmark, Application and Glossary for K-12 Classroom”

[1] http://www.ja.org/
[2] http://www.ncee.net/
[3] http://www.jumpstartcoalition.com/
[4] http://www.nefe.org/