会計をマンガで学ぼうという本はいろいろありますが、その中でも異色なアプローチをとっているのが森岡寛先生のご著書、「マンガで入門!会社の数字が面白いほどわかる本」です。

財務諸表よりも会社の中のお金の流れ

異色、というのは、一つには財務諸表の解説を主たる目的としていないからです。会計の本というと、「損益計算書とは…」、「貸借対照表とは…」と始まるものが多いのですが、本書はむしろ経営視点から描かれています。ストーリーとしては、ある会社に入社した主人公が、会社の改革プロジェクトに関わるというものです。その過程で、数値管理の必要性に目覚めていくことになります。

具体的には、会社の中のお金の流れが下記のように説明されています。

購買→生産→品質管理→受注先への販売→販売代金の集金→入金確認

この中で、購買、生産、品質管理は部署で言うと製造部の所管で、受注先への販売、販売代金の集金、入金確認が営業部の所管になっています。そして、この二つの部署の関係が悪いと、会社が全体として良くはならないとストーリーはすすんでいきます。

ビジネスパーソンが知りたいことにフォーカス

「異色」と言いましたが、実は本書のようなアプローチは初心者向けの会計本としては極めて正しいでしょう。というのは、新入社員が会社に入った時、いきなり財務諸表を理解したい、というのはまれです。むしろ、「会社全体の活動はどうなっているのか」、「会社の中のお金の流れはどうなっているのか」、そして、「なぜウチの会社はうまく回っていないのか」を知りたいというのが普通であり、本書はそれに応える内容になっています。

会社がうまく回っていない原因のひとつとして、原材料の在庫がふくれあがっている点を指摘しているのも妥当でしょう。そして、うまく回っていない企業の「あるある」ですが、そもそもどの品目がどのくらいあるかすら把握されていないという問題があぶり出されます。主人公の活躍によって様々な問題があっという間に解決されるというのはややマンガチックですが、会計を学ぶ上では妥当な構成になっています。

不正をさせないためにも会計が必要

なお、本書は最後の方に、主要登場人物のひとりが不正を行っていたという、やや後味の悪いエンディングを迎えます。それも、原材料を他の業者に横流しして、それを現金決済で着服するという古典的な手法です。このような不正を未然に防ぐためにも社内の会計システムの構築が必要というのは、説得力があると感じました。

ちなみに、ネタバレになりますが、不正をした人物は刑事責任を問われることなく、着服したお金の返済を条件に解雇ではなく自主退職として扱われることになります。おそらく多くの企業でこのような措置がとられているのでしょう。会計制度がしっかりしていなければ、不正を起こさせることもなかったわけですから、この意味でも経営者の責任は重いと言えます。

前ページ
竹内 謙礼、青木 寿幸著、会計天国を読む
次ページ
久保憂希也著、経理以外の人のための 日本一やさしくて使える会計の本を読む
 
  管理会計セミナーのページに戻る